クラインフェルターとは


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さて・・・。
学生時代の保健や生物の授業で、ヒトの場合、性染色体がXX(エックスエックス)だと女性で
XY(エックスワイ)だと男性であると習ったことを記憶されている方も多いと思います。
「クラインフェルター症候群」とは、X染色体の数が通常より1〜3個多いXYのヒト(一般的に言う男性)を
総称する呼び方ですが、このからくりを順を追ってご説明します。



常染色体と性染色体

普通、ヒトの染色体は2個ずつのペアが23対あって、全部で46個あります。
この染色体のうち、1番目から22番目のペア(合計44個)は相同染色体で、
常染色体
と呼ばれています。
また、残りの23番目のペアは常染色体とは違い、男女の性をつかさどる染色体で、
性染色体と呼ばれています。

母方の卵子と父方の精子が受精すると、生まれ来る子は受精段階で母方と父方から
2個のペアになっている常染色体のうちまったく同じ形の染色体を1個ずつもらって、
お互いがペアになります。
生まれ来た子が父親や母親に似ているのは、
このようにして親からの染色体をそのまま受け継いでいるからなのです。

では、性染色体の方はどうでしょうか。

母方は1〜22番目の常染色体の他に、23番目の染色体として2個のX染色体で構成されている
性染色体を持っています。Xが2個ですのでXXとなります。
また父方は23番目の染色体として、1個のX染色体と1個のY染色体で構成されている
性染色体を持っています。XとYが1個ずつですのでXYとなります。

通常、染色体は2回の減数分裂を経て、卵子(X卵)や精子(X精子,またはY精子)が作られます。
母方ではXXからX卵とX極体に分離され、父方ではXYからX精子とY極体,
またはY精子とX極体に分離されて、各々の卵子と精子がくっついて受精となり、
この時に23番目の性染色体のペアがXXかXYかによって、
生まれ来る子がXX染色体を持つ「女性」か、XY染色体を持つ「男性」かが決まるわけです。
(下図「受精のあらまし」参照)

受精のあらまし


それでは「クラインフェルター症候群」と密接な関係にある性染色体について、
もう少し詳しくご説明していきましょう。


クラインフェルター症候群とは

先程、減数分裂によって作られたX卵とX精子(またはY精子)が受精に至るとご説明しましたが、
この減数分裂の時に、時としてうまく分裂できずにXX卵やXY精子が作られてしまう場合があります。
このような状態で受精した場合、生まれ来る子の性染色体はXXYやXXXとなります。

また、 減数分裂は2回あるので、1回目でも2回目でもうまく分裂できなかった場合は
XXX卵やXXXX卵が作られてしまうこともあり、
このような状態で受精した場合、生まれ来る子の23番目の性染色体は
XXXYやXXXXY, XXXXXなどとなります。
(下図「受精のあらまし」内、中段,下段参照)

このように、複数のX染色体と単数のY染色体で構成されている性染色体(XXY・XXXY・XXXXY)を
持つヒトを、クラインフェルター症候群,またはクラインフェルター男性と呼んでいます。
1942年にハリー・クラインフェルター博士によって初めて発表されたので、この呼び名になりました。
「X染色体が通常より多いXYのヒト」という定義なので、医学的には全員男性です。


受精のあらまし(クラインフェルターの場合)

染色体画像例


クラインフェルター症候群の特徴・症例

クラインフェルター症候群(Klinefelter Syndorome)は、ヒトの性染色体異常症の中の1つです。
性染色体異常症といっても、普通の男性と全く変わりなく生活できる方や
性染色体異常に起因すると思われるさまざまな病気を抱えている方、
女性的な身体特徴が著しい方など、その症状はさまざまです。


医学文献には
体格は「きゃしゃ」になり、背が高くなりがちなので外見はひょろっとした感じになることが多い
と書かれていることが多いですが、
実際には「ほっそり・きゃしゃ」の他に肥満型の方も多いですし、身長も普通の方も多いです。


不妊症
多くの方は正常な性行為ができます。性器の勃起や射精能力も普通です。
しかし、作り出される精子の数が極端に少ないので、
卵子と結びついて受精させるというところまではとてもたどり着けないのです。
厳密には「100%不妊」というわけではないようですが、自然な方法では受精は難しいでしょう。

外見は男性ですが、男性性腺が未成熟の場合も多いです。 ただし受精能力がある場合もあります。
なぜならXX,XY,X,Yの4種類の精子を形成しうるからです。


女性化
一般男性と比べると男性ホルモンの分泌量が著しく少ないので、
男性的な身体状態ではない場合が多いです。
子供の頃は周囲の男の子たちとさほど変わりはありませんが、
二次性徴を迎える頃になるとその差が顕著になってきます。

個人差はありますが、具体的には
女性のように乳房が出てくる
声変わりが起こらない
男性的な体毛(ヒゲやスネ毛など)が生えてこない
男性器の発達が未熟で、外見が女性器とさほど変わらない場合もある

などが挙げられます。

また 性格も
内気で無口
繊細で気弱
静かな遊びが好き

というように女性的です。

またその反面、
普段はおとなしいがキレるとパニックになりやすく、気持ちのコントロールがつきにくくなる
という報告もあります。


発生段階ではY染色体のSRY遺伝子が働いて睾丸を形成し、同時に子宮形成を阻害し男性化します。
もちろん誕生時の性別は男性と判断されますが、
睾丸機能の低下により、女性化(女性化乳房など)する人もいます。
これは必ずというわけではありませんが、女性の要素が強いので稀なことではありません。
程度も人それぞれですが、男性ホルモン剤の投与(後述)や手術によって治すことができますし、
近年では女性として生活される方も増えてきています。


学習障害
一般的な知能や心身の発達の遅れがある場合があります。
特に幼児期は、言語の遅れや発音が不明瞭であることが多いようです。

病気がち
小さい頃は身体が弱く病気がちです。特に気管支関連の病気は多いようです。
また、心臓関連の障害のある方も見うけられます。
中年以降は、男性ホルモン不足による更年期障害に悩む方も多いです。

手の振戦
手や頭を振ったり、きらきら(ひらひら)手を振ったり、ぶるぶる手が震えたりと言うような仕草が
家族の方から報告されています。
特に、48,XXXYや49,XXXXYの方に多く見られるようです。


クラインフェルターの治療法

現時点でのこれといった治療法はありませんが、男性ホルモンを補充する方法があります。

男性ホルモン(テストステロン)の働き
男性ホルモンであるテストステロンは、精巣で作られ分泌されます。
この産生分泌は下垂体から分泌されるLH(性腺刺激ホルモン)により調節され、
さらにLHは脳の一部である視床下部で作られるLH-RH(性腺刺激ホルモン分泌ホルモン)の調節を
受けています。
したがって性腺機能の異常は、精巣ばかりでなく下垂体,視床下部に病変があるときにも起こります。

テストステロンは、筋肉の形成,脂肪の体内分布,骨形成,骨髄での血液細胞の形成に必要です。
男性体型を作るもととなるばかりでなく、精子の生成や男性的な性格の形成にも欠かせません。

ところがクラインフェルター男性は生まれた時から精巣の発育が悪いので、
男性ホルモンが減少して精巣の機能異常になり、男性ホルモン補充療法が必要になります。
これは単に、「男性的な体型や性格の形成のため」だけではなく、
さまざまな病気や体調不良、男性の更年期障害から身を守るためにも必要なことです。


男性ホルモン補充療法
男性ホルモンの補充にはテストステロンを筋肉注射します。
テストステロンの経口薬もありますが、肝機能異常をきたすため長期の使用には適しません。
2〜4週間に1回注射することで、正常男性に近い性腺機能を維持できます。
実際の補充は医師や看護士が行うことになっていますので、個人で注射をすることはできません。

テストステロンを補うことによって、男性体型を保つと同時に
男性としての健全な性欲や健康な快適さを持つことができます。
ただし、不妊症そのものを治すことはできません。


テストステロン注射療法の副作用
重篤な副作用は非常にまれです。
蛋白同化作用のため、体重は中等度に増加します。
ナトリウム貯留効果のため浮腫を生じることがあります。赤血球増多症をきたすことがあります。
女性化乳房は思春期や肝硬変などの疾患で生じますが、
そのような状態の時にこの治療を行うと起こりやすくなります。
これらの副作用が起こった時は注射量や頻度を減らします。
男性ホルモンの補充はテストステロン依存性がん(前立腺がん)の時は禁忌です。
年齢を重ねることによって前立腺がんの発生率は増えますので、
補充療法中の中高齢者もその検査を時々受けることが大切です。
いずれにしても、担当医から十分な説明を受けてから取り組むようにしてください。

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